「起業」というと「壮大なビジョンを掲げて社会を変えるための斬新なアイディアをもとに仲間を集めて大規模な成功を目指す」といったイメージが強い人が多いように思います。実際にイベントや講演会、メディアに露出する目立つスタートアップ経営者の多くがビジョンを語り、大きな目標を掲げている傾向にあるように感じます。
一方で僕自身は下記のブログで書いたとおり、最初からM&A狙いであり、世界を変えるといった意識の高さはいまのところ持ち合わせていません。
そんな中、勝手に共感して尊敬している経営者の一人である元mixiの朝倉さんの「論語と算盤と私」を読み、「志低い起業のススメ」という章があったので自分なりに読みながら考えたことを書きたいと思います。
ちなみにこの本は、マッキンゼーでのコンサルタント経験、自分たちで会社を立ち上げ、売却したスタートアップ経験、そしてmixiという上場企業での社長経験、エンジェル投資家としての経験が詰まったいい本だと思うので、起業したり大企業で社長になりたいなど経営を目指している人はぜひ読んでみてください。

論語と算盤と私―――これからの経営と悔いを残さない個人の生き方について
- 作者: 朝倉祐介
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/10/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (1件) を見る
息苦しい日本の起業に対するイメージ
本書でも触れられていますが、日本では事業売却や会社売却に対して極端にネガティブなイメージがついて回ります。 本書にも書かれていますが、
みながみな、ソニーやホンダを目指さなければならないような強迫観念にとらわれているように感じることがあります。
というのが日本の起業環境の実態ではないでしょうか。会社の売買なんて単なるマネーゲームだとして快く思わない人も少なくありません。
これは伝統的な大企業の周りだけでなく、スタートアップやVC界隈でも意識の高い起業が推奨されているように思います。特にVC周りの人にとってはビジネスモデルとして大きなリターンを得ることが重要なため、できるだけ目線高くホームランを打ってくれる起業家を好むように思います。
発言力のあるスタートアップ創業者などはVCからの支援を受け、高い目線で起業したから大きな成功を収めることができたと考える人が多いため、スタートアップ周りでもやはり世界を変えることを目的とした「意識の高い起業」が主流であるように思います。
お金儲けがきっかけで起業してもいいでしょ
一方でアメリカシリコンバレーでもサラリーマンでは得られないような大金を求めて起業する起業家は少なくないようです。
アメリカのユニコーン企業の一つであるGustoの共同創業者も下記のTechCrunchの記事で、起業のきっかけについて創業者が受け取る莫大な金額のお金を聞いて、自分にも出来るかもと思ったことだと答えています。
「2007年ってさ、数億円から十数億円でスタートアップ企業が買収されたというニュースがTechCrunchに飛び交うようになった時期なんだだよね。希薄化とか持分とかって話もあるけど、それでも創業者が手にするお金って数億円でしょ? 23歳にしてみたら、それって聞いたことのない大金だった。だから、そういうのを見て、ぼくも『Why not me?』って思ったんだよね」(エドワード・キム氏)
冒頭で紹介した「論語と算盤と私」によると、アメリカでは「IPOを目指します!」 という起業家は少なく、最初からM&Aでの買収狙いの起業家が多いようです。日本に比べてもIPOはハードルが高い一方で、M&Aの機会は多く、IPOでのホームランを狙うよりも地に足の着いたM&Aを狙うケースが多いとのことです。
このように起業する際にも地に足の着いた出口が見えている状態であれば、「起業はギャンブル」という状況ではなくなり、適切にリスクコントロールすれば選択肢の一つとして面白いものになります。そして下記のブログで書きましたが、個人的には日本の環境は起業するのにかなり恵まれた環境であると思っています。
もちろん本来価値のないものを価値があるように見せて、高値で販売するような人を騙すビジネスは絶対にダメですが、サラリーマンでは得られない大金を若いうちに手に入れたいという動機で起業を志すのは自然なことだと思います。結局、医学部の偏差値が高いのもリスクが低く、金銭的に報われる可能性が極めて高いという経済的な理由であると個人的に考えています。起業についても経済的に報われる道が見えているのであれば自然と数も増えるのではないでしょうか。
1億円の金融資産があるだけで取れるリスクの量は増える
VC含むスタートアップ界隈では、数億円規模のExitはしょぼすぎて、そんな小さなExitではなくもっと大きな夢を見るべきだという風潮が強いように思います。一方で創業者の立場からすれば、数億円のExitで1億円前後の資産を手に入れることができるだけで取れるリスクの量はかなり増えます。1回失敗してもダメージとしてはなんてことないので、また起業に向かい、シリアルアントレプレナーとなる人も多いでしょう。先述の通り、米国では日本に比べてM&Aの件数が5倍ほどと多く、起業の出口として一般的です。そのため一度起業してバイアウトした起業家が再度、起業するというのが一般的だと聞きます。
参考:米国のM&A件数と金額の推移
今、最も世界規模で成功しそうなスタートアップであるメルカリも、創業者の山田さんを始め、経営陣の多くが元起業家です。元起業家が再度起業するメリットとして起業のやり方がわかっているだけでなく、M&Aなどでキャッシュインしてれば取れるリスクの量が大きくなり、より大きなチャレンジができるように思います。
起業という選択肢が一般的になり、その中の何割かが売却して創業者としては大きなリターンを得る、その上でこれまでは取れなかったリスクを取り、大きな事業にチャレンジするというサイクルが生まれてくると、メルカリのような世界規模で成功するベンチャーが増えるのかもなと思っています。
僕自身も次の起業もM&A狙いでやろうと思っていますが、その後についてはまだ考えているところです。世界規模のスタートアップを作るというのも有力な選択肢の一つかもなと漠然と考えています。
最後に
冒頭で「日本における起業の息苦しさ」について説明したとおり、日本では「起業=崇高な理念の達成(お金は目的じゃない)」というのが、大企業や一般の人だけでなく、起業を推奨するはずのスタートアップ・VC界隈にも強くあるように思います。一方で米国ではM&Aの出口が日本よりも広いため、最初からM&A狙い(お金目的)で起業する起業家も少なくないといいます。だからこそ日本に比べて起業が多く、優秀な人ほど起業するのかもしれません。
僕個人としては、起業する人が増えて日本の経済が活性化するといったマクロの視点では特に物事を考えていませんが、純粋に一人のバイアウトを経験した人間として 起業という選択肢が持つ「美味しさ」を多くの人に伝えられればと思っています。